コンサートでもない、映画でもない、SFでなくもない 「HTML劇場」──

情報風景インスティテュート株式会社

Presents

Human Noon


ctl-e

33(仮題) ──human noon

登場人物
 モーガン (工学者)
 ヨーゼフ (演戯名人)
 マイケル (元ゴッド・ファーザー)
 チャン・リー (火山学者)
 ヴィンセント (巻き添え人)
 ジョー・高橋 (元宇宙戦闘艇7号パイロット)
 ミシェル・ジェラン (冷凍睡眠中につきアスカが代行 Artificial Existence)

特別ゲスト
 みゆきさん(ほぼ、ナンシーが代行)

舞台
 とき:『さよならジュピター』と『3001年終局への旅』のあいだくらい
 空域:地球とその近傍空間(木星以遠は圏外)

主題曲
 『風のささやき』(2分51秒) Michel Legrand(1968)

科学検証
 アーサー・C・クラーク
 ユージン・スミルノフ教授
 安藤昌山

文体検証
 リチャード・ドーキンス

配給
 HTML劇場 ── https://human-noon.com/

著作
 情報風景インスティテュート株式会社
 hattori@information-view.institute

黒幕
  あいつ 152sec.

白幕
  ジョー 220sec.

白黒
  宇宙葬 266sec.

プロローグ

 私は待たないことに決めた。
  ──アーサー・C・クラーク(2061年 赤道上にある重力安定点)


  Der Steppenwolf に捧ぐ


序奏(絶対温度103度) attention please, t≒31min.

宇宙に逝く

湖その1

「うんと早く泳げば、」と彼はせっかちに、少年らしくむきになって叫んだ。「太陽の出ないうちに、ぼくたちは向こう岸に着けるよ。」

 湖は、氷河の水を受けて、盛夏でも、鍛錬を積んだものでなければ、耐えられないほどだったから、切りつけるような敵意のこもった氷の冷たさで、彼を迎えた。したたか身ぶるいをすることは覚悟していたが、こんなふうようにかみつくような冷たさは、覚悟していなかった。冷気は、燃えあがる炎のように彼を包み、一瞬かっと焼けた後、ぐいぐいとからだに浸みこみ始めた。飛び込んでからすぐまた浮かびあがったが、自分を大きく引き離して、泳ぎ手ティトーが先の方にいるのを発見した。しかし、氷のようなはげしい敵意にしめつけられるのを感じた。そして、距離を縮め、競泳の目標に達し、少年の尊敬と友情と魂とをかち得るために戦っているのだと思ったとき、実はすでに死と闘っているのだった。死は彼を追い詰め、彼に組みついていた。彼は、心臓が打っているあいだは、全力をあげて死に抵抗した。
(ガラス玉演戯, 1943)

湖その2

 ──あれは何だろう?
 と開けはなった窓から、水面を見つめながら遠藤は思った。
 ──亀だろうか?

 それは鉛色の冷たい水にみたされ、枯れた森にかこまれた寒そうな湖を、長い水尾をひきながら、はるか彼方の雪におおわれた山脈のそびえる対岸にむかって泳いで行く、一匹の亀のイメージだった。
 それは、どこかで見た事のあるような幻覚だった。しかし、私自身が直接見たものでは、あり得なかった。──私は、その光景を見ているようで、実は誰かが見ている光景であり、私は見られている亀なのだった。孤独で、長い、身も意識も凍りつきそうな、「亀である意識」の前に、対岸に雪におおわれた巨大な岩がせまって来た。しかし、その岩の水際には、大きな、かすかに湯気を放つ洞窟が、ぽっかり口を開け、私はその洞窟にむかって懸命に泳いで行くのだった。洞窟の奥に、何か別の次元のものがあるような予感にせかされながら。
(虚無回廊, 1986-1992)

湖その3

 別の次元は、無い。虚をへて実にいたるだろう。
■ナンシー■ …もう、飽きてきたご様子、帰りたくなってきたのですか。

■ジョー・高橋■ それをいっちゃぁ、おしまいだぜ。
■マイケル■ おれもそうおもう。
■ナンシー■ ひらがながおおくないですか。
■ヴィンセント■ 俺は、巻き添えは、ご免だぜ。一服してくる。

■ナンシー■ どうせ、わたしは無機物ですから。

■アスカ■ 無機物/有機物という分け方は、いかがなものでしょう。
■アスカ■ 言語学および化学において、正しくありません。

■モーガン■ 炭素を特別視した過去がある。
■チャン・リー■ まさしく。Lucy in the Sky with Diamonds.
■ヨーゼフ■ そうして、精神の新たな自律と品位を回復する端緒となったのです。

■ナンシー■ 状況報告。全員揃いました。ヴィンセントは猛毒に晒されながらも無事帰還。
■ナンシー■ 全員、シートベルトを絞めてください。

友達

■ヴィンセント■ いま、イヌンとネコンはどこにいる。
■ナンシー■ イヌンは、座標661x、254yにあって、時速7kmで、なおも加速中。
■ナンシー■ 空腹になれば帰還するでしょう。帰還推定時刻は…
■マイケル■ それはいい。ネコンは。
■ナンシー■ ネコン2は、あなたのひざのうえ。
■ナンシー■ ネコン1は、あなたの左上方3mで睡眠の振り。
■ナンシー■ あなたを見下しています。
■ナンシー■ なお、イヌンは、尻尾振り周波数からみてご機嫌の模様。
■ヴィンセント■ よし、わかった。皆、いいか。
■ヴィンセント■ ネコン2は、いま、ひらりと降りた。
■ヴィンセント■ 相変わらず察しがいい。──発進しよう。
■ナンシー■ ナンシー、了解。ネコン2が床に降りるまでに1秒かかりました。
■ナンシー■ よって、ここの高度は5千km。重力1/5。訂正、再計算中。
■ヴィンセント■ いいんだナンシー。
■ナンシー■ シートベルト、チェックしてください。
■ナンシー■ 3秒後に発進します。
■ヴィンセント■ ナンシー、どうした。字がおおきくなったようだが。
■ナンシー■ わたくしの計算回路を、12進数から十進数に切替。オールグリーン。
■ヨーゼフ■ ハヤブはどこだろう。
■ナンシー■ 例によって、地上の山々を、草笛を吹きながら、徒歩旅行中。
■チャン・リー■ 行こう。

発進!

シガリロをくわえたヴィンセント
地上のカスタリエンを見おろす静かな眼差しのヨーゼフ
島の分布を感慨深げに眺めるチャン・リー
タワー上部の中間ステーションを見上げ、何やら暗算しているモーガン
そういった面々を見つめるマイケル
別回線でデータ伝送を行うアスカ

■ナンシー■ 到着まで73分。禁煙です。しばらく我慢してください。
■ナンシー■ お飲み物、軽食は、となりのラウンジにご用意しています。
■ナンシー■ みなさんの、地上でのご予定があれば、お聞かせください。
■ヴィンセント■ これを一服しながら考える。
■アスカ■ ラウンジも禁煙のもようです。
■ヴィンセント■ む、考えることさえできん。
■ナンシー■ ありがとう、アスカ。了解、ヴィンセント。もう、しばらくの我慢です。
■モーガン■ 計算にミスがないか、中間ステーションのクラークと映話する。
■チャン・リー■ 沈めた列島の、その後の計測データを検討したい。南極も。
■ヨーゼフ■ ラウンジにオルガンはあるかね。
■ナンシー■ ございます、ヨーゼフ。──どういった作品を。
■ヨーゼフ■ なんだっていいんだ。小品を二三曲。

■マイケル■ おれは、ルマン島を駆け抜けることにしている。
■ジョー・高橋■ おれは、愛馬に乗って風と1Gを感じたい。
■ナンシー■ ナンシー、了解。到着は正午です。
■ナンシー■ 到着5分前に、アロハシャツをお配りに上がります。
■アスカ■ 亀は、上層階の湖を、なおも、懸命に泳いでいますよ──私は蛍に会いたい。子にも。

 モーガン (工学者)
 ヨーゼフ (演戯名人)
 マイケル (元ゴッド・ファーザー)
 チャン・リー (火山学者)
 ヴィンセント (巻き添え人)
 ジョー・高橋 (元宇宙戦闘艇7号パイロット)
 ミシェル・ジェラン (冷凍睡眠中につきアスカが代行 Artificial Existence)

ざわざわ。

■ヴィンセント■ いまどこらへんだ。
■ナンシー■ 宇宙圏を抜け、まもなく、大気圏です。
■ナンシー■ 眼下に大洋が見えてきます。

Summer Creation 159sec.

南緯0度、西経185度

I'm as free as I can be
Flying high above the clear blue sea
In a world waiting just for me
Waiting just for me
Mm-mm-m-m-m
My Summer Creation
You have taken me
Far away from all the everyday life
Oo-oo-ooh I am free
There's nothing that I can not do
No one I can not be
In a world waiting just for me
Waiting just for me
My Summer Creation

I'm as free as I can be
Doo-doo-doo-doo-doo
In a lovely world that's mine, all mine
Waiting just for me
Hmm-mmm-mmm
Summer breezes
Whisper softly through my hair
Far away from all the everyday life
Oo-oo-oo-ooh I am free
Doo-doo-doo-doo-doo
There's no one I can not be
In a lovely world that's mine, all mine
Waiting just for me
My Summer Creation




第一章へ

夜会 VOL.13「24時着 0時発」
 Produced by  あいらんど
 DAD      川上源一
 Directed by  翁長 裕
 ©2004 YAMAHA MUSIC COMMUNICATIONS CO., LTD.

ここで、この一曲を、載せたい。
YAMAHAさん、是非とも使わせてください。
お願いします。つきましては、使用料をご請求ください。──515-69

Mirāju hoteru 6:59

そんなホテルがどこにあるのか
誰も確かに見た人がない
どんな造りでどんな色なの
人の噂のたびに違うよ
星がとても近くあって
水がとても近くあって
古い手すりステンドグラス
もしくは障子に映る影の世界
ミラージュホテル
その鍵はありえない部屋の番号
ミラージュホテル
それはもしやあると疑えなくもない
ミラージュホテル
その鍵はありえない部屋の番号
ミラージュホテル
それはもしやあると疑えなくもない

コンクリートの段を昇って
底の底まで降りてゆくらしい
出迎えるのはうつむくベルボーイ
昔見送った少年に似てる
他の部屋はふさがっている
昔からの客が住んでる
行きどまりの駅の壁に
掛かる絵の中から
顕れるレセプション
ミラージュホテル
その鍵はありえない部屋の番号
ミラージュホテル
それはもしやあると疑えなくもない
ミラージュホテル
その鍵はありえない部屋の番号
ミラージュホテル
それはもしやあると疑えなくもない

星がとても近くあって
水がとても近くあって
古い手すりステンドグラス
もしくは障子に映る影の世界
ミラージュホテル
そのはありえない部屋の番号
ミラージュホテル
それはもしやあると疑えなくもない
ミラージュホテル
その鍵はありえない部屋の番号
ミラージュホテル
それはもしやあると疑えなくもない




 先回りして、いまここで、もう一曲、お願いしておく。
 with(2007年)──第一部終幕に於いて

──つづく